Novels


現代アメリカの文化に詳しいわけでもなく、他の現代作家の作品を読み込んでいる わけでもなく、まったくの素人による読書感想文です。まあきちんとした批評は 探せばいくらでもあるでしょうから、そちらを参考にしてくださいな。 星印による評価もまったくの独断。星5つが最高です。

内容に触れるコメントについては[Spoiler!] 印のついたリンクの 先にあります。まだ読んでいない方は決して訪れないで下さい。

原作の出版年順に並んでいます。 邦題はわかる範囲で記載しています。 最近邦訳が出たものはフォロー出来ていないので、情報をお寄せ頂ければ 幸いです。


Carrie (1974) , 「キャリー」 ★★★★★
デビュー作。いい意味でいかにもそんな感じのする作品。 荒削りの感じがかえっていい味を出しています。狂信的な 母親の描写はちょっとパターンかなって気がしないでもないけど。
暴走してしまうキャリーに対し、為す術もなく巻き込まれてしまう スーザン・スネル。時には事態の改善のためにベストを 尽くしたつもりが、事態を悪くする方向に 作用してしまうこともある。だけれど、仕方ないよね。 ベストを尽くすことしかできないんだから... っていうのは "The Dead Zone" におけるセーラの立場と似たところがあるかな。 そういう人間の業を、キングは最後に許すんですね。

Salem's Lot (1975) , 「呪われた町」 ★★★★
書き出し、"Almost everyone thought the man and the boy were father and son" のリズムに痺れました。 キングの書く文には独特のリズムがありますが、この作品は とくにリズムが活きているように思えます。
数多くの登場人物それぞれの視点をスイッチしながら 事件全体を描いていく手法は "Needful Things" 他キング作品の中に 多く見られますが、 この作品では特に登場人物の名前を覚えるのが大変。
プロローグとエピローグを支配する一種の「静けさ」もいいですね。 "Regulators" のエピローグにも継承されていますね。

Rage (1975) , 「ハイスクール・パニック」 ★★★
Richard Bachman名義で出版されたもの。 キング自身は説教じみているとかなんとかあんまりいいコメントを していなかったように思うけど、わりと好きです 客観的に見れば狂っているのは主人公なんだけど、読んでくうちに 主人公は至極まともでおかしいのは周囲じゃない? って気がしてくる。

なお、キングは最近、この作品を自身の出版リストから外し、絶版とすることにしたそうです。 理由は、90年代に入ってから米国で多発しているSchool shooting。 「もし、万が一、ほんのわずかでもこの作品がSchool Shootingに影響を与えた 可能性があるのであれば、私はこの作品を世に出したままにはしておきたくない」

The Shining (1977) , 「シャイニング」 ★★★★
呪われたホテルに閉じ込められた家族、テレパシーを持つ少年、 狂ってゆく父親、と書けば純然たるホラーなわけですが、 キングがスポットを当てたかったのは、心の弱さゆえに 悪しきものにつけこまれて崩壊してゆく人間の心理の様に思えます。 ホラー要素はあくまで道具立てにすぎません。

Night Shift (1978) , 「深夜勤務」他 ★★★
中には完成度の高いものもありますが、全体の印象としては 習作を集めたスケッチブック、という感じの短篇集。
"I Know What You Need", "Children of the Corn", "Quitters, Inc", "The Lawnmower Man" 等はホラー短篇として よくできていると思いますが、キングのベスト作品と比べると ちょっと弱いかなと思います。

The Stand (1978)
このバージョンは出版時の都合によりかなりの部分が削られています。 後にその部分を復活した "Complete and Uncut version"が出たので、そちらのほうを 読みました。

The Dead Zone (1979) , 「デッド・ゾーン」 ★★★★★
マスコミで大仰に超能力を特集したり、中には超能力が 欲しくて修行したりする人もいるらしいけど、本当に 超能力を持っちゃったとして果たして幸せなんだろうか。 超能力があっても人生は人生、楽しいことも悲しいことも あるわけさ。
キングの多くの作品の底に流れる、「希望」と「許し」--- この作品ではJohnnyのセリフ、"We all do what we can, and it has to be enough" にすべて込められているような気がします。
映画も秀逸。

The Long Walk (1979) , 「死のロングウォーク」 ★★★
Bachman名義第2弾。シュールレアリスティックな設定が 不思議な味わい。というより、設定がこの作品の全てって 気もしないでもない。
謎解きを期待してたら肩すかしを喰うでしょう。 設定が不条理であれば不条理である程、 その場に置かれた人間の本性が現れて来ます。
初期の作品だけあって多少掘り下げが浅い感じは否めないけれど、 でも最後まで引っ張られてしまう。

Firestarter (1980) , 「ファイアスターター」 ★★★★★
再び超能力もの。やっぱり超能力を持つのって悲劇だねえ。 ストーリーは"The Dead Zone"よりスピーディで読ませるかもしれません。 政府の超能力実験に協力したことが仇になり、秘密組織に追われる親子、 という設定は普通のSFとしては十分面白いですし、 キングのストーリーテリングの技術にのせられて一気に読めます。 読後感も良い。
ただ、こうしてキングの諸作品を並べてみると、 人間の心の中を覗くよりはストーリーの方に重点が置かれすぎている ようにも思えます。「キングのベスト」というにはちょっと物足りない けれど、それでもおもしろいので星5つ。

Cujo (1981) , 「クージョ」 ★★★
極限状態での人間の心理を克明に追う。 Supernaturalな要素が全く無い本作を読むと、 キングの描くSupernaturalな現象はただの道具立て、 舞台設定に過ぎないという思いを強くします。

Danse Macabre (1981) , 「死の舞踏」
未読。

Roadwork (1981) , 「最後の抵抗」
いまいちでしたね。追い詰められてた人間の心理を 書こう書こうとしているのはわかるんですが...

The Dark Tower: The Gunslinger (1982) , 「ガンスリンガー」 ★★★★
キングが「このペースで書いていたら完結まで300年かかる」 と語る大長編 "Dark Tower" シリーズの幕開け。 これだけ読んだんじゃ何だか全然わからないと思います。 Part IVまで読んだところで星四つに増やしました。 完結してみないとやっぱり何とも言えません。

The Running Man (1982) , 「バトルランナー」 ★★★
キングの作品中最もスピード感のある作品。背景設定はまあ、 ちょっとダークな未来像ってんでありきたりと言えなくはない けど、有無を言わさぬ迫力で最後まで引っ張られます。

Different Seasons (1982) , 「スタンド・バイ・ミー」「ゴールデンボーイ」 ★★★★★
ハードカバーで発売された当時、34週間連続で ベストセラーリストのトップをキープしたという 恐るべき中編集。(そのあとペーパーバックでさらに10週連続No.1)。 実際、それぞれの季節になぞらえた 4つの中編はどれも読みごたえのある作品です。 ところで、"Different Seasons" が新潮文庫では「恐怖の四季」 と訳されてしまっているのは何故? Shawshank Redemptionの副題 "Hope Springs Eternal" の訳、「春は希望の泉」は好きなんだけど。

Christine (1983) , 「クリスティーン」 ★★★★★
ティーンエイジャーの友情と恋。私が過ごした日本の高校生活とは 全然雰囲気が違うけど、やっぱり何か共通するものを感じます。
映画はなんか勘違いしてましたねえ。

Pet Sematary (1983) , 「ペット・セマタリー」 ★★★★★
私をキング中毒にしたきっかけの書。愛する者を取り戻そうとして 凶悪な存在に取り込まれてしまう... 読みながら、「ああ、そっちに 行っちゃダメだあああ!」と言いたくなるんだけど、自分がもし 主人公の立場だったら、破滅が待っているとわかってもやっぱり 行ってしまうかもしれない。
キングの作品中で、最も絶望感が濃い作品かもしれません。

Thinner (1984) , 「痩せゆく男」 ★★★
それなりにスピード感があって読ませます。主人公の友、ジネリの 描写が好き。ただ、体重に対する感覚が日本人と違う...

Talisman (1984) , 「タリスマン」 ★★★
Peter Straub との共作。ちょっと構成とかが荒い感じはしますが 勢いがあります。

Cycle of the Werewolf (1985) , 「マーティ」 ★★
挿絵がいっぱい入っているけど、分量としては短篇と言ってもいい くらいです。キレのいい文体はキングらしいですが、"'Salem's Lot" と同じような手法を用いようとしているのに分量が少ないため、 ちょっと浅くなってしまったように思えます。

Skeleton Crew (1985) ★★★★
"Night Shift" に次ぐ短篇集ですが、明らかにこっちのほうが パワーアップしています。個人的にコメントをつけたいのは...

It (1986) , 「IT」 ★★★★★
ペーパーバックが1000ページ超。邦訳は分厚いハードカバー2冊が 文庫で4冊になっていましたね。
子供時代の描写は "The Body" を思い起こさせるものがあります。 膨大な量の伏線とストーリーを見事に収束させているのは見事。 詳しい感想は現在工事中です。

The Dark Tower Part II - The Drawing of the Three (1987) , 「ザ・スリー」 ★★★★
大長編の2巻目。完結してみないことには何とも言えませんが、 Part IVまで読んで伏線が明らかになるにつれ、だんだん私の 中での評価が上がって来ました。

The Eyes of the Dragon (1987) , 「ドラゴンの眼」 ★★★
キングにしては珍しく、現実と全く接点の無い、 中世風の世界を舞台とするファンタジー。 それが、この作品の強みにも弱味にもなっています。

現実との接点を敢えて避けたことにより、 キングの魔法の一つである「ありそうもない話を描きながら、 現実の一つの断面を見せる」という力はこの作品にはありません。 それが弱味です。しかし、お話に徹することで、 物語の面白さというものを純粋に味わうことができる、とも言えます。 難しいことを考えずに、子供の頃、昔話に夢中になったように、 「お話」を楽しんでみるのも良いなあと思わせてくれる作品です。

設定や固有名詞は「ダークタワー」シリーズと重なる部分もありますが、 あまり直接的な関連は無いようです。

Misery (1987) , 「ミザリー」 ★★★★
うん、恐いです。これでもかこれでもかってくらい。 Supernaturalな要素が無くても恐怖は描ける。 むしろ、一番恐ろしいのは暗闇に潜むモンスターでも、 廃屋を彷徨する幽霊でもなく、全ての人間の心に潜む狂気かもしれない。
映画もCathy Batesの演技でいいセンいってましたが、原作の 方がやっぱりずっと迫力ありますね。

The Tommyknockers (1987) , 「トミーノッカーズ」
なんつうか、yet another B級Sci-Fiって言っちゃっていいのかな。 実はよく覚えていないんです。 次第に人間でなくなってゆく恋人を見ながら、でも止める勇気がなくて 酒をかっくらっているって設定は結構いいと思うんだけど、 いまひとつ感情移入できませんでした。

The Dark Half (1989) , 「ダーク・ハーフ」
初めて翻訳より先に原作を読んだ作品。まだ読むのに慣れてなかった せいもあるのかもしれないけれど、今一つパワーが無かったような 印象。設定はおもしろいんだけどね。

The Stand: The Complete and Uncut Version (1990) , 「ザ・スタンド」 ★★★
米軍の研究所から漏れ出した細菌兵器のために、人類のほとんどは 死滅する。生き延びたわずかな人々が直面したのは、凶々しい力と 善なる力との対決であった... という話。 理性と非理性、根源的な善と悪、など、"Salem's Lot" から "Desperation" に至るキングの作品のひとつの主流となっている 構図であり、初期のキング作品の集大成とも言えそうです。

全体で3部構成で、それぞれが充分一本の長編になりそうな長大な 作品。第1部の、次第に致死的インフルエンザが社会に広まって行く 様子を様々な人物の個人的な視点から描いてゆく部分や、第2部の最後 にかけての鮮やかな話の展開は見事です。ただ、いかんせん長く、 途中で中だるみを感じたこともあり、実は第2部の途中でしばらく 読むのをやめていました。悪役の描写や結末にちょっと不満が 残ります。

Four Past Midnight (1990) , 「ランゴリアーズ」「図書館警察」 ★★
"Different Seasons" に続く中編集。なんだけど、なんかいまいち。 "The Langoliers" はそれなりにキングお得意のB級SF映画乗りで 楽しいんだけど。

Needful Things (1991) , 「ニードフル・シングス」 ★★★
「キャッスルロック最後の物語」。数々のキング作品の舞台に なってきたCastle Rockがとうとう...。
"It seems logical, but logic often has little to do with the way people behave" は名セリフ。
分厚さに負けない迫力があります。

The Dark Tower Part III - The Waste Land (1992) , 「荒野」 ★★★★
さてやっと話が進んで来る第3巻。 どんどん面白くはなってきています。

Dolores Claiborne (1992) , 「ドロレス・クレイボーン」 ★★
映画の方がなぜか印象が強い。原作は一回しか読んでないけど、 映画は5〜6回観たせいで、思い出すのは映画のことばかり。

Gerald's Game (1993) , 「ジェラルドのゲーム」 ★★
極限状態での人間の心理。"Cujo" に続いて再びそのテーマに 挑みます。そこそこの出来ですが、一箇所、読んでいて本当に 悲鳴をあげた、背筋がよじれるようなえぐい描写があります。
"Dolores Claiborne" に続き、この作品でも、キングは少女に対する 父親のsexual abuseの問題を扱いますが、それが"Insomnia", "Rose Madder" では夫の妻に対する暴力の問題へと継承されて ゆきます。

Nightmares & Dreamscapes (1993) , 「いかしたバンドのいる町で」「ヘッド・ダウン」
短篇集。読んだのですが、よく覚えていないんです。 本は実家に置いて来ちゃったし。
"Doran's Cadillac" は主人公の作業の描写が凄くて印象に 残っているのですが。
もう一度読み直してから改めて感想を書きます。

Insomnia (1994) , 「不眠症」 ★★★
"Needful things" で Castle Rock を崩壊させてしまったキングは、 "It" の舞台になった Derry を次のホームタウンに定めたようです。 "It" の大嵐から8年、再びDerryは大きな戦いに巻き込まれます。

トンデモな設定を強引に読ませてしまうのはキングの御家芸ですが、 ちょっと中盤ダレる感じがあり。そのせいで終り方もくどく感じられて しまいました。ただ、この作品は "The Dark Tower" シリーズに 関連するものがあります。そちらのシリーズが完結してから読み直すと また違ったふうに読めるかもしれません。

Rose Madder (1995) , 「ローズ・マダー」 ★★
"Insomnia" で少し取り上げた、夫の妻に対する家庭内暴力の問題を ここでは正面から詳細に取り上げています... と最初のうちは思わ せられるんですが、supernaturalな要素も盛り込まれています。絵画の 向こうの世界の描写について、元ネタの神話を知らないせいか いまひとつイメージが掴めませんでした。

追記:絵画の向こうの世界は、Gunslingerの世界だそうです。 なるほど。

The Green Mile (1996) , 「グリーン・マイル」 ★★★★★
大恐慌下のアメリカ南部、死刑囚監房にて起きた奇跡と、罪の記憶。 ディケンズを模して、毎月薄いペーパーバックを一冊づつ、 半年にわたって出版されたこの「連続小説」は、最終巻の発売週に ベストセラーリストのトップ10中、同一タイトルで6ポジションを 同時に占めるというおそるべき記録を作りました。

私はリアルタイムで読んでいて、毎月の発売を楽しみにしていたのですが、 最終巻の展開はまさしくショッキングで、興奮して眠れなかった程です。 詳しくはここ [Spoiler!]に。

なお、この作品は聖書との関連が深いとされます。 そこでちょっと聖書を読んでみました [Spoiler!]

Desperation (1996) , 「デスペレーション」 ★★★★★
面白いです。恐いです。 最初は星4つにしてたんですが、読み返してみて5つに直しました。
人々を汚染してゆく本質的に悪しきものに対する 弱き人間達の戦いという "'Salem's Lot" の構図の再来。 男の子が活躍するのも同作品と似ていますが、 メッセージ性はより明確になっています。ここ数年キングが 追求して来たものが結晶しているという感じ。
特に、"The Green Mile" で鮮やかに描かれた 神の行いの不条理性がここでも "God is cruel" とはっきり述べられます。 そんなむちゃくちゃな神を何故認めることができるのか--- その回答はエンディングまで読めば自ずと明らかになるでしょう。
(無神論者の方は上記「神」を「人生」とでも読み変えて下さい)

The Regulators (1996) , 「レギュレーターズ」 ★★★
B級SF映画のノリ、全開。火を噴く銃口、バッタバッタと倒れる人々。 設定も荒唐無稽---冷静に考えたら笑いだしたくなるような恐さ。 ただしラストシーンは静謐で非常に美しい。
Bachman名義で"Desperation"と同時に発売された。両方の ハードカバーの装丁がひとつながりになるように作ってある だけでなく、登場人物の名前や設定が多く重なっている (微妙に ずれているんだけど)。Kingは"The Regulators" について 「Bachmanと私は精神波の波長がぴったりあっているに違いない」 とコメントしている。

The Dark Tower Part IV: Wizard and Glass (1997) , 「魔術師の虹」 ★★★★
Part IIIまでで執拗に張られていた伏線はこういうわけだったのか! しかし新たな謎が次々と呈示される! キング流の「悪夢」に翻弄されます。お見事。 これを読み終った後、Part Iから順に読み返しているのですが、 およそ書き始めてから20年近くが経過したという本作。 最初の頃とは微妙に文体のリズムが変わって来ているような気もします。 しかし折り返し点を過ぎ (キングは全部で7冊くらいに なると言っています)、全体の構成が次第に明らかになって来たところで、 いかにキングの最初の構想がしっかりしていたかがわかります。

Autopsy Room Four (1997) , 「第四解剖室」 ★★★ (アンソロジー "Robert Bloch's Psychos" 収録)
気がつくと、私は身動き一つ出来なかった。瞬きもできず、声をたてることも 出来ない。人々が私をストレッチャーに載せて運んで行く。着いた所は解剖室。 待ってくれ! 私はまだ生きているんだ!

恐いんだけど、何だかコミカル。笑えるけど、よく考えると恐い。 いかにもキングらしい短篇。最後の落とし方は、何と言うか、とってもB級です。

Bag of Bones (1998) , 「骨の袋」 ★★★★★
妻が急死してからというもの、人気作家Mikeは一切作品が書けなくなった。 妻との思い出に決着をつけるため、彼は妻といつも夏を過ごした 湖畔の別荘に向かう。かつてと変わらぬ湖畔の田舎街。 だがその街には隠された忌まわしい過去があった…

古典的ホラーの雰囲気ただよう作品。「ねじの回転」を思い出しました。 キングの作品で言うと、「シャイニング」の系統でしょうか。 夜中に読んでいると背中のへんがちりちりしてくる感じの恐さ。 舞台はキングファンにはおなじみ、メイン州のDerry ("It", "Insomnia") とDark Score Lake ("Gerald's Game") です。"Insomnia" の Ralph Roberts がゲスト出演。"The Dalk Half" の Thad Baumont、 Castle View County SheriffのPangbornやBannermanという懐かしい 名前もちらほら。

普通のエンターテインメントとして読んでも十分面白いこの作品ですが、 作家が主人公(しかも一人称の語り)という点に着目すると フィクションを書く意味をキングなりに問い詰めた作品と 見ることもできそうです。

The Dark Tower: The Little Sisters of Eluria (1998) , 「エルリアの修道女」 ★★★ (アンソロジー "Legends" 収録)
「ダークタワー」シリーズの小エピソードです。エピソードとしては第1巻「ガンスリンガー」 の前、第4巻「魔術師と水晶」で語られる事件の後に位置する話です。

魔術師Walterを追って一人旅をしていたRolandは、住民の死に絶えた町Eluriaで ちょっとした油断からミュータントに襲われ、気付くと白いテントの中で修道女達に 手当を受けていました。おぞましい方法で治療をする一方で、食事に麻痺薬を仕込む 修道女達の狙いは? 一気に読める短編。 「魔術師と水晶」のエピソードを知っていると、せつないものがあります。

なお、アンソロジー "Legends" は同名で何冊か出ているので、買うときは キングのが入っているかどうか確かめましょう。

The Girl Who Loved Tom Gordon (1999) ★★★★★
女の子が森の中で迷子になる。それだけの話です。たったそれだけの話が、 なぜこうまで読者を夢中にさせるのか。これを魔術と言わずして何と 言いましょう。キングの語りのテクニックは止まるところを知らないようです。

目に見えている現実のそのすぐ裏側に、理性を拒絶する非現実が 潜んでいて、その境界は思っているよりずっと薄いものだ---キングの 作品に繰り返し現われているテーマの一つが、今回は実に単純な設定 を用いて明確に表現されます。いや、設定が単純だからこそ力強いのかも しれません。我々が享受している文明生活からちょっと路を外れれば、 そこには人に牙を剥く大自然がある、当然のようでいて、都市生活者が 忘れている事実。

そして、現代社会の子供に取って、聖杯はウォークマンであり 神は大リーグのピッチャーなのです。祈り、神、目に見えない力 (フォースと読んでくれい)、それらは空想でも気休めでもなく 実在するのだと、この「現実にありそうな物語」は教えてくれます。 ネタバレ有りのもちっと詳しい感想は こちら [Spoiler!]

なお本書は単独のハードカバーとして刊行されましたが、長さから言うと キングの普通の長編よりずっと短く、むしろDifferent Seasonsに収められて いるような "Novella" に近いです。Different Seasonsの収録作品は、 いずれも長編を書き上げた後にその余勢で書かれたそうですが、 ひょっとするとこの作品もそういったものかもしれません。著者後書きは 1999年2月になっていますが。 あ、それからCastle Rockもちらりと登場します。どうやらNeedful Things の後ちゃんと復興を遂げたようです。森の中で迷う子供、というのは "The Body" を彷彿とさせるし、"The Shining" を思い出させる 描写もあります。

The Road Virus Heads North (1999) , 「道路ウィルスは北へ向かう」 ★★ (アンソロジー "999" 収録)
主人公の作家が、ガレージセールにふと眼を止めて絵を買う。 だがその絵はただの絵では無かった… いかにもキング。いつもの調子、いつもの展開。 ティータイムにちょっと楽しむのが丁度良いくらいの短篇。

Hearts in Atlantis (1999) , 「アトランティスのこころ」 ★★★★★
裏切ること、裏切られること、挫折すること、大人になるとは結局 そういうことだ。哀しい経験をしてしまった後の「心」は、 もう以前の「心」には後戻り出来ない。では、以前の心はどこに 行ってしまったのだろう。それは永遠に失われてしまったのだろうか。 海に沈んだアトランティスの様に、時の流れの中に没してしまったのだろうか。

1960年、大人への入口に立った少年期。1966年、理想と現実のギャップに 悩む青年期。1984年〜1999年。過去の意味を考える中年期。キング本人と 同じ年代の数人の主人公達が辿る運命が、5つの中短編に記されます。 キングの作品は常に何らかの形で「運命, `ka'」を扱ってきましたが、 それは多くの場合、超自然的な出来事を背景に描かれる人間の行動でした。 この作品では、背景にある運命は、1960年から1999年に至る社会そのものです。 多少はスーパーナチュラルな要素もありますが、むしろ「普通の小説」っぽい。 にもかかわらず、キングが繰り返し描いて来たテーマが、よりはっきりと 表れています。"Stand by me"、"It" にあった、子供の心と訣別する痛み。 "Pet Sematary"、"Bag of Bones" にあった、失うことのつらさ。 "The Green Mile" の、生きることと死ぬことの意味への問いかけ。 それらが凝縮された本作品中で、主人公達は心の底で希望を求め続けます。

人は決して過去から逃れられない。それは業苦でもあり、救済でもあります。

主人公達よりふたまわり下の私には、描かれる時代を直接体験として 呼び起こすことはできません。むしろ私は、この作品を通してその時代に 触れるのです。両親の世代さえまだ若く理想に熱くなっていた時代。 今、両親はやはり、この作品の主人公達のように過去に対峙しているのだろうかと、 そんなことまで考えてしまいます。

結末には賛否両論あるかもしれません。私はちょっと甘いなと感じましたが、 でも泣けてしまいました。それがキングの良いところでもあります。

Blood and Smoke (2000) ★★★★
3つの短編をキング本人が読み上げたオーディオブック。CDバージョンとカセットバージョンが あります。 いずれもタバコが絡んでくる短編で、パッケージがタバコのケース (マルボロみたいなの) を模してあります。 箱の側面の、タバコでは「健康に害がある」と注意書きが ある部分には、「警告:暗くなってから聴くと、恐怖、震え、および激しい パラノイアをもたらすことがあります」と書いてある念の入れようです。

3つの短編の内訳は次の通りです。2つはこのオーディオブック向けの書き下ろしで、 紙媒体では出版されていません。 (4/8/2002追記:この2編は短編集"Everything's Eventual"に収録 されました)

  • Lunch at the Gotham Cafe 「ゴーサムカフェで昼食を」: 妻に逃げられ、ニコチン欠乏に苦しむ主人公の体験する悪夢。 語りの主人公がどこまで正気なのか、わからなくなってくるところが ぞっとします。
  • 1408: 書き下ろし。ホラー作家Mikeは、執筆中作品のためにニューヨークのあるホテルの 「呪われた部屋」1408号室に滞在しようとします。創業以来12人の 自殺者、30人の死者を出し、20年以上閉鎖されていた部屋に何があるのか… オーソドックスながら、部屋の描写の場面は思わず聞き入ってしまいます。
  • In the Deathroom: 書き下ろし。アメリカのジャーナリストFletcherが、南米の独裁国家にて スパイ容疑で尋問されます。「バトルランナー」や「ファイアスターター」 を思わせる、力持つ者との緊迫したやりとりが良いです。

キングの文章っていうのは、やっぱり「語り」なんだなあ、ということを強く感じました。 短編の出来としては中庸だと思うのですよ。ところが、キングの語る言葉が紡ぐ 情景とストーリーには、聴く者をぐいと掴む力があります。全部で3時間半あるんで、 最初はちょっとだけ聴くつもりが、一気に最後まで聴いてしまいました。

キングの役者ぶりもなかなか良いです。「ゴーサムカフェ」の「イイイイイイイー」 はかなりイってしまっています。

Riding the Bullet (2000) , 「ライディング・ザ・ブレット」 ★★★
電子ブックとして出版された短編です。米国では今のところ、紙媒体での出版は予定されて いないようです。日本では紙媒体で翻訳が出版されました。 (追記:2002/3に、短篇集「Everything's Eventual」に収録されました)

メイン大学にいたAlanの元に、たった一人の肉親である母親が脳卒中で倒れた という知らせが入ります。たまたま車が壊れていたので、ヒッチハイクをする Alan。いつしか日が暮れて、不吉な月が空にかかり、そして次にやって来た 車の主は…

あっさりした短編ですが、テーマそのものはなかなかに重いです。 "Storm of the Century" や、 "Hearts in Altantis"中の"Low men in yellow coat" なんかで キングが追求したものに通じるかも。

The Plant (2000)
キングが実験的に、ネット上で公開を始めた作品。一話あたり$1〜$2で提供されます。 "Riding the Bullet" と 違い、暗号化されていないpdfファイル、HTMLあるいはプレインテキストで ダウンロードできます。つまりコピーが出回る危険があるわけですが、キングは そこで読者に挑戦します:もし皆が正直に支払うなら、掲載を続けるが、 ただ取りする人が多ければ、企画を中止する、と。

このシステム、ネットの可能性を信じる者としては期待していたのですが、 残念ながら支払率が悪く、中止となってしまいました。

On Writing (2000) , 「小説作法」 ★★★★★
ノンフィクション。「書くこと」について、キングが語ります。 文法に関する細かい注意から、編集者との付き合い方まで、 創作の舞台裏をあけっぴろげにしてみせる、 作家を志す人への具体的なアドバイス集です。

しかしファンの目からみると、むしろこの本はキングの原点を知り、 小説という表現形態へのキングの限りない愛を知ることができるという意味で 貴重な作品となっています。

全体はおおまかに4部に分かれています。キングが自分の半生を振り返って、 作家になってゆく上でのキーポイントとなった出来事を断片的に記す "C.V."、 ものを書く上での基礎的事項をまとめた "Toolbox"、 個々の作品に具体的に触れながら技法を解説してゆく "On Writing"、 そして、1999年にキングを襲った自動車事故とそれが持つ意味を振り返る "On Living: A Postscript"。 どれもファン必見の情報満載ですが、 それにも増して私の心を捉えたのは、 「書くこと」にキングが向かい合う時の誠実で真剣な姿勢でした。

魔法は何もないところからは生まれません。ごく基本的なこと、 例えばたくさん読み (キングは年間70-80冊フィクションを読むそうです)、 そして自分でたくさん書くこと。 自分の中から出て来るものに、自分を偽らずに向き合うこと。 常に技法を磨き続けること。 「才能」という言葉の下に無視されがちな、 そういう舞台裏の大切さを改めて教えてくれる作品だと思います。

Dreamcatcher (2001) , 「ドリームキャッチャー」 ★★★

Jonesy, Henry, Pete, Beaverの4人は子供の頃からの親友で、 大人になっても年に一回、故郷の山で狩りをすることだけは欠かさなかった。 しかし年を重ねるにつれ、少年の夢は現実の生活の前に色褪せてゆく。 中年にさしかかる頃には、4人ともすっかり生活に幻滅していた。 その冬、再開した4人は、悪夢のような事件に遭遇することになる。 人知を超えた敵に対抗できる唯一の武器は、4人の共通の秘密。 誰にも認められなかった、少年の日の、勇敢な行動だった。

キングにとって事故後に書いた初めての長編小説です。 事故後、初めてタイプライターの前に座ったとき、「どうやって書いたらいいのか わからなかった。まるで書き方を忘れてしまったようだった」というキングの回復期の 苦しみを反映するが如く、物語前半はややぎこちない感じがついてまわりました。 しかし後半からはキング本来の調子を取り戻し、最後には、初期のキングを思わせる、 不条理な状況を有無を言わさぬ筆力で読ませるという展開に目が離せなくなります。

また、この作品中には「トミーノッカーズ」「スタンド・バイ・ミー」、そして「IT」など、 いくつもの過去の作品がエコーのように響いています。 特に「IT」を読んでおくと良いかもしれません。

Black House (2001)

再びキングとストラウブのコンビによる、"Talisman" の続編。 Jack Sawyerは長じてLAPDの刑事となり、難事件を解決して名をあげますが、 31歳の若さで職を辞してWisconsinの小さな町に引っ込んでいます。 テリトリーでの冒険は記憶の底に埋もれてしまっています。 そこに、連続児童誘拐殺害事件が発生。 同時にJackは不思議なビジョンを見はじめます…

大いに期待して読みはじめたのですが、展開が遅い上に 描写に輝きが無く、 今に面白くなるかという期待だけで読み続けたらそのまま終わってしまいました。 人物描写も極一部を除き退屈です。何より、ぐっと引き込まれそうになる ところで一歩引くようなナラティブは、新しい効果を狙っているのかも しれませんが個人的にひどく興をそがれました。 ストーリーは、"Talisman" の続編というよりは例のシリーズの 分岐エピソードといった趣です。あの人とかあの場所とか出て来るし。

Everything's Eventual (2002) ★★★★

キング最新の短編集。過去にアンソロジーで発表されたものの他、 今まで紙媒体で出版されていなかったもの(オーディオブック "Blood and Smoke" 収録の "1408" と "In the Deathroom", 電子ブックのみの出版だった "Riding the Bullet" 等) も含んだ14編の短編が収録されています。 まえがきではキングの短編に対する思い入れが語られていて興味深いです。 ("Riding the Bullet" は電子ブック出版として商業的には成功だったが、 人々の関心の多くは物語そのものよりその出版形態にあるようだった… どんな形態を以てしても短編が消えて行く流れは止められないのか? とか。)

キングの語り口を味わえるなかなか良い作品が詰まっています。

From a Buick 8 (2002) ★★★★

ペンシルベニアの小さな街の警察署。その裏の倉庫に、 秘密が眠っている。署員達の間だけで処理され、20年以上守られて来た秘密。 警察官であった父を事故で亡くし、父の面影を追って 署に手伝いに来ていたNedに、今、それが語られる…

ハードカバーで350ページありますが、話のノリはキングの短篇のノリです。 ひとつのネタで引っ張るという。99年(事故より前)に、フロリダから NYへのドライブの途中に着想を得て2ヵ月で草稿を上げたそうです。 確かに、この作品には「勢い」があります。語りのペースは落ち着いて いるのですが、一つの着想が読者の想像を越えて展開してゆくのが 読んでいて楽しかったですね。

ストーリーとしては実はあまりたいしたことは無くて、 むしろそのせいで、キングの語りのうまさが際だっています。 署員達の会話の中から、彼らの人生が、人間関係が、 そして街の生活が浮かび上がってくるのです。 語りを楽しむ作品かと。


[Addicted to Stephen King] [A Slice of My Life]
Shiro Kawai
shiro@lava.net