The Mist


主人公達が放りこまれた異常な状況。 なぜそうなったかについては、SF映画にありそうな設定が 噂話として多少語られる程度で、事実上納得のゆく説明は全くなされない。 そして何より、「どう解決するんだ」と期待して最後まで読んで来た読者を 突き放すようなあのラスト。(ヒッチコックの「鳥」を思い出させる)。 全てにすっきりとした解決を求める読者なら、怒り出しかねない小説である。

しかし、敢えて説明しなかったおかげで、キングの描きたかったものは より鮮明に伝わってくるように思える。"The Dead Zone", "Firestarter"等、 説明もしっかり行う、バランスの取れたSFに比べ、 この小説では予定調和というものを放棄してしまったがゆえに、 否が応でも読者の目は不条理状況下での人間の行動のディテールに引き寄せられる。

想像を絶する大事件 --- 事故や自然災害 --- に本当に巻き込まれたら あなたはどういう行動を取るだろうか。それまで当然と思ってきたものが 目の前で崩された時、人間の本性が明らかになる。

理性的であろうとするあまり現実の不条理性を認めない人間、 異常な状況を神の裁きと言った不可知なものに結び付け思考停止する人間、 本文中で描かれるいくつかの類型的な人間像は、キングの見事な語り口に よって非常な現実感を帯びて読者に迫って来る。 対する主人公は決してヒーロータイプではなく、 状況に流されて妻を裏切ってしまうような人間だが、 他の人間よりは多少現実を直視でき、そして希望を持っていた。

結果として彼らがどうなったのかは語られない。 最後まで読んで来た読者は、主人公達と同じように、濃い霧の中にとり残される。 そこから脱出する唯一の方法は、最後に主人公が記した言葉、「希望」である。

「希望」を真正面から描いた "Rita Heyworth and Shawshank Redemption" に比べればメッセージ性も構造も弱い。 が、そういったものを抜きでも不思議な味わいのある作品である。


[Novels] [Addicted to Stephen King] [A Slice of My Life]
Shiro Kawai
shiro@lava.net