Rita Heyworth and Shawshank Redemption

"Hope is a good thing, maybe the best of things, and no good thing ever dies."

自由になるために


自由である、とはどういうことだろうか。

この小説で描かれる刑務所という場所は、人間の自由をかなりのところまで 奪うための場所である。少なくとも、そういうことになっている。そして、 幸いにも刑務所とは縁無く暮らしている人々は、トイレに行くのにいちいち 断りをいれる必要もなく、いやなことがあれば酒場で飲んでうさを晴らせるし、 休日には好きな場所を散歩することだってできる。つまり、自由である、と。

Shawshank刑務所の中では看守の不正が幅をきかせ、 逆らうものは命さえも奪われる。 収容者の中でも力の強いものはそれによって権力を築き、 それに阿る者が当座の生活の安定を得、反抗する者は絶えざる暴力にさらされる。 日々の生活をなんとかやりくりしている塀の外の人間達にとっては 想像を絶する弱肉強食の恐ろしい世界であり、 法に触れずに変わらぬ日常を生きて来られたことを感謝するのだ。

だが、塀の外の社会でも不正はあり、金にモノをいわせて権力を持つものがあり、 阿ることを拒否したものは組織からはじき出される。 「みんなと同じように」している限り、安全に社会システムの中で自分の場所を 確保することができるが、違ったことをしようものならこの社会の中に居場所が なくなってしまうんじゃないか。 みんなと同じような社会の中に居場所が無くなったらあとは墜ちて行くのみ、 行き着くのはさらに恐ろしい、みじめな場所なんじゃないか。 そんな不安にかられ、社会システムの歯車になんとかしがみついて行こう としているとしたら、それでも自由であると言えるのだろうか。

Redは何十年も務所暮らしをした後に裟婆に出ることの不安を訴える。 私は "inistitutionalized" されてしまったと。 Shawshank刑務所内でなら、生きてゆくための術を何から何まで知っているが、 すべてのものが予測不可能な塀の外で、いったいどうやって生きて行けば良いのかと。 これはまるで、長年勤めた会社が突然倒産してしまった会社人間の不安と 同じではないか。 結局、塀の内の社会は、塀の外の社会の縮図ではないのか。 外の社会で表面に出ないもろもろの汚物が表面に見えているだけなのではないのか。

Andyは他のやつとは違った。無実の罪で入った務所内で、 タフな生活を強いられているにもかかわらず、いつも自由という名の 透明な外套を羽織っているようだった。Redは回想する。 Andyと他の収容者と違わせていたもの、それが「希望」だった。

Andyが刑務所のグラウンドで様々な石を見つけ、美しい彫刻を作る 天才だったのは象徴的である。希望は、それを見る気のない者にとっては そこらへんに転がっている石ころと同じである。しかし見る目のある者は それを拾い上げ、その美しさを引き出すことができるのだ。

そしてバクストンの牧草地の片隅に置かれた黒陽石のかけら。 Andyの新しい人生を約束するもの。 彼の脱獄計画を支えたのは、その石への希望だった。 洪水で既に流されてしまったかも知れない。新しい道路ができて舗装の 下になってしまったかも知れない。けれど、希望を実現するにはいつだって リスクがつきまとう。 先の見えない未来に向かって踏み出すことができるのは、希望があるから。 「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからだよ」と言ったのは 星の王子さまだが、まこと、人生が美しいのは希望を隠し持っている からに違いない。そしてどんな環境に置かれても、それを持っている限り 彼の精神は自由なのだ。

もう一つ、私がこの小説で気に入っているのは、Andyのそうした希望が Redにも受け継がれたことだ。裟婆で生きて行く不安から逃れるために、Redは 軽犯罪を犯して塀の中へ戻ろうという衝動にかられるが、その度にAndyの ことを思い出して思い留まる。それをするのはAndyを汚す行為であり、 世にある何か美しいものに泥を塗る行為だと感じたからだ。 Andyの「希望」は、彼自身を支えただけではなかった。RedがAndyの残した 黒陽石のかけらを再び手にするとき、Andyの希望はRedに受け継がれ、 Redも自由人として生きることを決意する。

Redの最後のモノローグ、「この興奮は、結末のわからない旅に出発する 自由人のみが感じることのできる興奮だ」--- これほど見事に、 自由であることの感覚を表現した文章を私は他に知らない。


[Novels] [Addicted to Stephen King] [A Slice of My Life]
Shiro Kawai
shiro@lava.net